2012年5月3日木曜日

星和書店/精神科治療学 23巻07号 抄録本文


星和書店/精神科治療学 23巻07号 抄録本文
■特集─「軽いうつ」「軽い躁」─どう対応するか─ I
●双極II型障害─その登場の背景と意義─
岩井圭司
 双極II型障害(BPII)は,DSM─W(1994年)により初めて採用された,比較的若いカテゴリーである。BPIIは,軽躁病エピソードを伴う反復性の大うつ病エピソードと定義される。以前は,BPIIの軽躁期が見過ごされて,単極性のうつ病(MP)と診断されることが多かったものと思われる。BPIIにはKraepelin以来の長い前史がある。本稿ではそれを概観した上で,BPIIとそれを含むAkiskalの双極スペクトラム概念は,わが国の伝統的な記述現象学的診断概念と親和性があること,また,現行のDSM体系に大きな変更を迫る契機となる可能性があることを指摘した。
Key words: hypomania, bipolar spectrum, premorbid character, kraepelinism

●躁うつ混合状態の意味─「易刺激性─敵意うつ状態」(Benazzi,Akiskal)と「激越性うつ病」(Koukopoulos)─
大前 晋
 現代の気分障害研究者による躁うつ混合状態の定義では,DSM─W─TRのそれよりも軽症病態が許容され,また身体治療に起因するものまでが含まれる。ここでは比較的軽症の病態にみられる,うつ病性混合状態の二様態について紹介する。「易刺激性─攻撃性うつ状態」は,Akiskalが多年にわたり主張してきた,境界性パーソナリティ障害の一部を気分障害圏,とりわけ双極II型障害の範疇で捉え直そうという試みの一環として位置づけられるが,これには反論も多く,Akiskalの気分障害観も標準的なものとはいえない。「激越性うつ病」は古典的精神病理学から存在した概念だが,Koukopoulosは外来軽症例についても,これらの特徴を看取することに臨床的意義を認めている。しかし概念総体としての躁うつ混合状態の意義とは,抗うつ薬の慎� ��な使用への指針と,気分調整薬のうつ状態に対する有効性を示唆するにとどまっており,特定の治療指針と予後予測に対する妥当性が確立されているとはいえない。
Key words: agitated depression, bipolar disorder, bipolar spectrum, borderline personality disorder, depr-essive mixed state


私は根管の後に鎮痛剤を得るのだろうか?

●双極II型障害と境界性パーソナリティ障害は関連しているのか?─自殺関連行動を呈した感情障害患者の検討から─
徳永太郎  林 直樹
 境界性パーソナリティ障害(BPD)で見られる問題行動や感情不安定を,双極性障害,特に双極II型障害の症状として位置づけることが近年,議論の的となっている。それは,臨床症状の理解を広げる見方の一つとして評価できるけれども,まだそれを裏付けるための研究は不十分な段階に留まっている。われわれは本報告において,松沢キャンパス自殺関連行動研究の対象患者から双極I型群,双極II型群,うつ病群を取り出し,その3群の臨床的特徴の比較を行ったが,双極II型障害にBPDとの間の関連などの特別の所見を見出すことができなかった。従来の研究を振り返っても,双極II型障害とBPDの関連は決して確立されたものではない。しかし臨床的見地からみるなら,双極II型障害とBPDの診断合併は高い頻度で認められるものであり,� �別診断や合併症例の治療についての考察など,多くの検討課題を含む重要テーマであることが強調される必要がある。
Key words:bipolarIIdisorder, borderline personality disorder, comorbidity

●子どものうつ病─発達障害とbipolarityの視点から─
傳田健三
 子どものうつ病の診断と病態理解について,とくに発達障害とbipolarityの視点から検討した。子どものうつ病の診断においては,従来診断と同時に操作的診断基準に沿って症状を網羅的に聞いていく必要がある。またcomorbidityが多いゆえ,発達障害や不安障害の併存を念頭においた病歴聴取が必須である。子どものうつ病においては成人におけるメランコリー親和型と非メランコリー親和型の分類よりも,広汎性発達障害やAD/HDの併存という視点の方が治療的にも有益である。次に,子どものうつ病をbipolarityの視点からとらえる有用性について述べた。うつ病で発症した子どもの少なくとも10%は実際には双極性障害であると考えて治療経過を慎重に追っていく必要がある。経過中に双極スペクトラム障害が疑われる場合には,その後の治� �と予後を考慮すると双極性障害を念頭において治療を行う方がよいと考える。また,SSRIやSNRIが躁状態やいわゆるactiva-tion syndromeを惹起する可能性を指摘した。最後に発達障害や双極性障害を包含した子どもの気分障害の病態理解について述べた。
Key words:children, adolescents, depression, bipolar disorders, developmental disorders


禅にきびリムーバー

●小児における「双極性障害」診断の問題点
高橋礼花  加藤忠史  金生由紀子
 米国では「双極性障害」と診断される子どもが増えている。しかし,日本では症例報告も少なく,小児の初診の際に鑑別疾患として挙げられることは稀だと思われる。本稿では,米国で双極性障害が注目されるに至った歴史的背景から,過剰診断といわれるに至った経緯,またはたして小児の双極性障害は成人の双極性障害と同じ疾患といえるのか,継続性があるものなのかという議論について述べたい。まだまだ診断基準自体が議論されているところであり,今後,研究を重ねていく必要のある分野であるが,日本にも同様の臨床像を呈する子どもがいるかどうか,注意して診察していくことは必要であろう。
Key words:prepubertal and early adolescent bipolar disorder (PEA─BP), attention─deficit/hyperactivity disorder (AD/HD), diagnostic criteria, development, emotion

●子どもの抗うつ薬治療における問題─診断と治療反応性をめぐって─
岡田 俊
 児童青年期にも,年齢と発達段階を考慮すれば成人期の診断基準を用いて診断しうる大うつ病性障害があることが認識されたが,児童青年期の「うつ」と成人期の大うつ病性障害の病態が同一であるのか,同様の治療的介入が可能であるかはまだ十分に明らかにされていない。長期経過を調べた研究から,児童青年期の「うつ」は,早期に軽快するが再発しやすいこと,成人期の大うつ病性障害や双極性障害に移行しやすいことが知られている。近年明らかになった抗うつ薬投与によるactivation syndrome,さらに自殺関連事象の誘発は,児童青年期の「うつ」が併せもつ潜在的なbipolarityに着目することの重要性を改めて認識させた。子どもの「うつ」への介入においては,それぞれの子どもの状況因や心理社会的状況の多面性,縦断的経過にも十分に配慮して介入することが重要である。さらに,今後の検討では,子どもの「うつ」の回復と再燃予防につながる介入のあり方についてもエビデンスを蓄積し,臨床に取り入れていくことが重要である。
Key words:antidepressant, major depressive disorder, activation syndrome, bipolarity, psychosocial inter-vention


肥満関連の代謝疾患の国際的なジャーナル

●子どもへの抗うつ薬の投与に関わる問題について
野邑健二
 子どもへの抗うつ薬の投与には,いまだ明確になっていない点が多々ある。最近になって子どもに対しても大人と同じ診断基準を用いて診断をするようになり,今まで考えられていたよりもずっと多くの児童青年期のうつ病患者がいることが明らかとなっているが,鑑別診断・併存症状などについて注意する必要がある。薬物療法は三環系抗うつ薬は効果が実証されなかったが,SSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)が発売されて,効果と副作用の少なさから第一選択薬として用いられるようになった。SSRIと自殺関連事象との関係が指摘されて薬物療法に混乱を生じた時期も見られたが,現在はactivation syndromeなど特に治療初期の副作用に留意して用いるようになっている。認知行動療法や家族へのアプローチなどとの併用も有用とされている。児童期と青年期の病像の違いについても考慮するべきである。
Key words:children, adolescent, depression, antidepressant

●不登校とうつ
清田晃生
 不登校に不安と抑うつを伴うことは臨床上よく経験するが,不登校も抑うつもきわめて異種性の高い概念であるため,その対応には病態水準や発現様式など総合的な理解が必要である。DSM─W─TRの気分障害の診断基準を満たす事例であっても,背景要因の違いから治療的対応は異なってくる。本稿で提示した,(1)背景疾患,(2)発達障害,(3)パーソナリティ特性,(4)経時的変化,(5)環境要因の評価という5軸からなる総合的評価は,問題行動を呈する子ども全体を理解するのに有用であると思われる。こうした総合的評価は問題解決の視点を提供するために行うものであり,原因探しを目的とするものではない。最近の報告でも,児童青年のうつ病治療において環境要因や子どもの認知スタイルの評価が重要であると指摘されており,その� ��で薬物療法や心理療法の選択を考えていくことが望ましい。
Key words:school refusal, depression, anxiety, integrated assessment


●気分変調症と気分循環症─その症候と疾患論的位置づけ─
津田 均
 操作的に定義された気分変調症と気分循環症の領域を考える場合,その全体を感情病圏に包摂して考えるか,人格の問題が中心となる群と感情病圏の群とに分けて考えるかという選択が生じる。この問題意識のもとに,Akiskalらが気分変調症,気分循環症の研究からbipolar spectrumの概念の拡大へ向かった過程を,後者の立場から前者の立場へ徐々に移行した過程として検討した。Akiskalは,軽躁の側で行動,思考面を重視した症候把握を提示し,双極II型,気分循環症を鋭敏に探知することに貢献したが,抑うつの側では,生気的症状よりも認知面を重視した彼の症候把握に従った場合,人格の病理が入り込むことを指摘した。中核的感情病概念の中で把握しきれない,慢性化しやすい今日的病態として,逃避型抑うつ,McCulloughが記述したタイプの抑うつなどを取り上げ,それらの病態把握については,人格寄りの病態か感情病寄りの病態かの区別を念頭に置くとともに,社会的同一性の軸を導入する必要があることを論じた。
Key words:dysthymia, cyclothymia, bipolar spectrum, chronic depression, social identity

■研究報告
●学校災害─PTSD患者に対する後方視的研究─
大岡由佳  丸岡隆之  前田正治  丸 秀策
 学校における体罰やいじめ,事件,事故などの遭遇によってトラウマ反応を示す子どもがいる。本調査では,大学病院における過去5年間の児童思春期例で,学校でトラウマティックな出来事に遭遇してPTSDと診断された子どもの後向き研究を行い,それらの特徴を考察した。子どものPTSD診断においては,その前提となる「例外的に強いトラウマ(ICD─10)」の外傷的出来事の判断の難しさに加えて,症状の呈し方が様々であることが挙げられた。また学校災害では,学校に行きたいのに症状出現によって行けないといったPTSD特有のジレンマがあり,トラウマ症状に応じた個別対応が必要であることが明らかになった。医療機関の対応としては,子ども達の回復を第一にした関係機関との連携が欠かせないと考えられた。
Key words:psychiatric patients, school, children, PTSD, collaboration


■臨床経験
●治療抵抗性統合失調症に対するaripiprazole併用療法の効果
富田 克  内村直尚
 Aripiprazole併用療法〜スイッチングを受けた,Kaneらの基準を満たし,慢性的にPositive and Negative Syndrome Scale(PANSS)の総得点が100点を超える重症の治療抵抗性統合失調症患者13名の臨床経過を調査した。Aripiprazoleの投与による最終的な転機は中程度改善(PANSS総得点変化−20点以上)が4名,軽度改善(同−10〜−20)5名,軽度悪化(同〜+20)2名,中程度以上悪化(暴力,自殺企図)が2名であった。改善例9/13との治療抵抗性統合失調症に対する併用療法薬としてのaripiprazoleの有用性が示唆された一方で,精神症状の悪化した例も認めるなど適応には慎重を要すると考えられた。Clozapineが一般臨床で利用できない本邦における,治療抵抗性統合失調症患者に対する治療のオプションとしての役割が期待される一方で,治療の最適化のための標的症状や精神症状悪化の危険因子の確立等が今後の重要な課題であると考えられた。
Key words:treatment─resistant schizophrenia, aripiprazole, combination, switching

●重度の制止に対しECTのみで効果がみられずベンゾジアゼピン併用後に劇的に改善したうつ病の一例
上田 諭  河嶌 讓  齊藤卓弥  野上 毅  花尻美和  下田健吾  大久保善朗
 重度の精神運動制止を呈した初老期女性のうつ病に対し,無けいれん性電気けいれん療法(ECT)単独ではほとんど奏効せず,ECT終盤で併用したベンゾジアゼピン(BZ)が劇的な効果を示した症例を提示した。BZはけいれん閾値を上げる性質をもつことから,一般にECT中の投与は避けるべきであるとされている。一方,カタトニア(緊張病症候群)の治療においては,BZとECTの有効性が確立され,併用で相乗効果を示した例も報告されている。カタトニアではない重度の制止のみを示す本例においても,同様の効果が現れた可能性が大きい。本例はいまだ例外的な成功例であり,一般的に有効な方法といえるものではない。しかし,「最後の妙法」となることの多いECTにおいては,重要な治療選択になる可能性があると思われる。
Key words:severe psychomotor retardation, depression, electroconvulsive therapy (ECT), benzodiazepine, catatonia


●緊張病性亜昏迷状態を呈し統合失調症が疑われた若年周期精神病
小林聡幸  山家俊美  加藤 敏
 思春期周期性精神病ないし若年周期精神病は,月経周期と関連を持って精神病症状を反復する疾患だが,国際的認知は低く,操作的診断基準にも収載されていない。その病像から統合失調症と誤診される可能性があるが,通常,双極性障害と共通した治療が奏効するため,診断が治療を決する疾患である。われわれは,緊張病症状を呈し,入院当初,緊張型統合失調症と誤診された若年周期精神病の症例を経験した。症例は18歳女性で,大学に入学し一人暮らしを始めて間もなく,徘徊の末,亜昏迷状態に陥った。全身の筋緊張と弛緩の繰り返し,語唱,蝋屈症,衒気的表情,常同行為などを認め,緊張型統合失調症と思われた。抗精神病薬の投与でいったん改善傾向を示すも,すぐに亜昏迷状態に戻るということを繰り返し,3回目の� �相において,性周期と一致して症状がみられることが判明した。Lithium carbonateが著効した。若年周期精神病においても病像の重症化に伴って緊張病症状が出現する可能性があるという知見は臨床的に重要である。
Key words:periodic psychosis of adolescence, catatonia, stupor, schizophrenia, lithium carbonate



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