<かぜ薬の関連記事>
かぜ薬に関するネット上の記事を拾い読みしました。
■ 乳幼児の風邪薬使用に警鐘(2011年3月:日経メディカル)
OTC薬のみならず医師の処方にも見直しの余地
諸外国では、有効性が乏しい上、重篤な副作用を来し得ることからOTC風邪薬の乳幼児への使用を規制する動きが出ている。一方、国内では注意喚起止まりで、OTC薬と同様の成分を処方する医師も多い。
「2歳未満の乳幼児には、OTC風邪薬を飲ませるより医師の診療を優先させるよう、購入者に情報提供すること」─。昨年末、厚生労働省が小児の用法があるOTC風邪薬(写真1)の製造販売元に対し、こんな注意喚起を行った。
きっかけは昨年11月、薬害オンブズパースン会議(東京都新宿区)が、OTC風邪薬の6歳未満への使用禁止を求め、厚労省に要望書を提出したことだった。OTC風邪薬は、抗ヒスタミン薬や鎮咳去痰薬などを配合した医薬品。小児への使用について米国や英国などでは、症状緩和の有効性のエビデンスが十分でない上、重篤な副作用の発生や誤用・過量投与の恐れがあることなどを理由に、2歳未満もしくは6歳未満への使用を厳しく規制している(表1)。
表1 小児のOTC風邪薬の規制に関する諸外国の対応
だが、日本OTC医薬品協会は「国内の製品は海外に比べて成分含量が少なく、本来の用法・用量を守って服用する限りは十分安心して使える」との考えで、厚労省も「全く効果がないというエビデンスはなく、国内では副作用報告もほとんどない」(医薬食品局総務課)とのスタンス。対応は冒頭の注意喚起にとどまり、使用年齢の見直しには至らなかった。
もっとも、厚労省の通知が出たことで、日本OTC医薬品協会などの業界団体は、今年1月、購入者に適正使用を促すミニポスターを作成、薬局・薬店に配布した。
見直すべきは医師の処方?
乳幼児への風邪薬投与を巡る問題は、わが国の場合、OTC薬に限った話ではない。薬局・薬店で医療機関の受診を勧められたとしても、医師が同じような風邪薬を処方しているのが現状だ。抗ヒスタミン薬や鎮咳薬、去痰薬などを風邪薬と称して乳幼児に「セット処方」している医療機関は多い。
にしむら小児科(大阪府柏原市)院長の西村龍夫氏の調べでは、風邪で医療機関を受診した患児の8割以上に抗ヒスタミン薬や去痰薬が処方されており、多くは多種類の薬剤を同時に投与されていた。
医師が処方する風邪薬についても乳幼児の風邪に対する有効性を示すエビデンスはほとんどない(表2)。それどころか、例えば、抗ヒスタミン薬には副作用として中枢神経の抑制や不整脈、痙攣などが、鎮咳薬では呼吸抑制などがそれぞれあることが知られている。「投与するメリットがデメリットを上回ることはないと考える」(西村氏)。
表2 風邪に処方される薬剤の乳幼児に対する主なエビデンス(西村氏による)
実際、西村氏は風邪と診断した乳幼児にこれらの薬剤を処方していない。「風邪の多くは治療の有無に関係なく、数日間の経過で自然治癒する」からだ。
にもかかわらず、わが国では長年、投薬が風邪診療の"標準治療"として行われてきた。患者は「薬をもらうことが当たり前」と刷り込まれているから、当然処方を希望する。よって、医師の処方行動も変わりにくい。
西村氏はその一因が医学教育にあると指摘する。風邪のようなコモンディジーズの診療スキルを学ぶ機会は乏しく、「重症疾患の治療の仕方は教わっても、『どのような患者を治療すべきか?』という教育はほとんど行われてこなかった」(西村氏)。結果、治すことに重きが置かれ、投薬が優先されてしまう。
加えて、西村氏が問題視するのは、小児科医の多くが耳や鼻を診る教育を十分に受けていない点だ。例えば、乳幼児では鼻副鼻腔炎による鼻性喘鳴を聴取することが多いが、「鼻咽頭を意識せずに聴診のみで診断すると、気管支炎や肺炎、喘息といった過剰な診断につながる。結果的に、風邪にもかかわらず抗菌薬や気管支拡張薬までもが処方されることになる」と西村氏は説明する。
救急医療にも多大な影響
こうした治療に慣れた保護者は、子どもが風邪を引くたびに不安を抱き、「治らない」と言っては受診を繰り返す。それが時に、救急外来のコンビニ受診の一因ともなっている。
京都府立医大救急医療学助教の安炳文氏は、風邪薬の有効性を示すエビデンスが乏しいことは認めつつも、「だからといって患者ニーズを一切無視して全く処方しないというのも、現状では保護者の納得が得にくい」と話す。保護者の求めに応じて風邪薬を通り一遍に「セット処方」することには否定的だが、症状がひどく保護者の不安が強い場合、副作用のリスクを評価した上で、症状緩和効果を期待し抗ヒスタミン薬や鎮咳去痰薬を処方することもあるという。
「まずは、保護者の疑問や不安、ニーズを把握した上で納得いく対応をすること、そして予想される風邪の自然経過を伝えることが重要だ。説明は時間がかかるが、こうした積み重ねが、長い目で見ると救急外来の適正受診にもつながるのではないか」と安氏は話している。
■ 風邪薬は症状に合わせて選ぶのが鉄則(2008年12月:日経トレンディネット)
信頼できる専門家がいる薬局で
にきび薬のポンプボトル
寒くなり、風邪をひきやすい季節になってきた。長引かせると、つらいだけではなく、仕事などさまざまなことに支障がでてしまう。風邪薬を上手に使って、風邪を早期に撃退しよう。
よく「風邪の"ばい菌"をもらっちゃって」などというが、これは厳密には間違いだ。風邪の大半はウイルスによって起こるので、「ばい(黴:カビ)」でも「細"菌"」でもない。「そんなことどうでもいいのでは」と言われそうだが、実はこれは風邪薬がどう効くかという話に大きくかかわってくる。
「抗生物質」は、病気の原因となる微生物を撃退する薬だが、その大半は細菌に効くものだ。抗生物質の登場で、肺炎など、主に細菌が原因の病気は劇的に治るようになった。細菌用の抗生物質は、細菌には毒だが人間の体細胞にはほとんど影響がないため、飲めば細菌だけを撃退してくれる。
しかし、抗ウイルス薬の開発は、難しい。ウイルスは、細菌よりもずっと小さく、人間の細胞の奥深くに入り込んで活動する。そのためウイルスを攻撃しようとすると、害は人体に及び、強い副作用が出てしまうのだ。
長年、開発の努力は続いているが、抗ウイルス薬は、まだ数えるほどしか出ていない。抗インフルエンザ薬の「タミフル」が話題になったのも、ウイルスが原因のインフルエンザには、有効な薬がそれまでほとんどなかったからだ。
そういうわけで、風邪ウイルスに対抗する薬は、まだ発売されていない。市販の風邪薬は、せき、鼻水、発熱などの症状を抑える対症薬か、身体を温めたり栄養を補給して身体の抵抗力を上げるものがほとんどだ。風邪薬を飲んでも、それが直接風邪を治すわけではない。
だから、風邪薬を飲んだからといって無理は禁物だ。安心して無理をすれば、かえって悪化させることになる。風邪薬の賢い使い方は、せきなどつらい症状を抑えることでゆっくり休み、身体に備わった抵抗力が風邪ウイルスを撃退できるようにすること。また、どうしてもはずせない大事な試験や仕事があるときには、一時的に症状を抑えて乗り切るという使い方もある。この場合も長期間抑えるのは無理なので、使ったあとは、すぐに休んで悪化させないようにするのが大切だ。
■風邪薬の賢い使い方
・症状を抑えて楽になったところで身体を休めて、身体に備わった抵抗力が風邪ウイルスを撃退しやすくする。
・大事な試験や仕事など、どうしてもはずせない用事があるときに、一時的に症状を抑えて乗り切る。
どの成分がどんな症状に効く? 眠くなる成分は? 風邪薬選びの基礎知識
風邪薬は対症薬なのだから、「風邪薬なら何でもいいだろう」と漫然と選ぶのは間違いで、自分の症状に合わせて選ぶべきだ。咳がひどいときには「○○咳止め」、鼻水が止まらなくて困るときには、「□□鼻炎カプセル」という選び方のほうが、はっきりとした効果を期待できる。ただ、風邪の症状は、せきも鼻水も微熱も……というふうに、複合的に出てくることが多い。さまざまな症状が出ているときには、総合感冒薬という選択もあるだろう。種類別に、特徴や注意点を説明しよう。
●せき・たんに効く薬
せきがひどいときに飲む薬。せきの発作を抑える「塩酸ジヒドロコデイン」「塩酸メチルエフェドリン」「ノスカピン」、たんを排出しやすくする「塩酸ブロムヘキシン」などが入っている。せきで眠れないときや、どうしてもはずせない会議で周囲に迷惑をかけないために利用するといいだろう。
●鼻水に効く薬
アレルギー反応を抑える「抗ヒスタミン薬」や鼻汁など粘液の分泌を抑える「ベラドンナ総アルカロイド」「ヨウ化イソプロパミド」といった薬が入っている。
「マレイン酸クロルフェニラミン」などの抗ヒスタミン薬には、眠くなるものが多い。車の運転をする人や大事な試験を受ける人は、そういうものが入っていないものを選びたい。眠くなるものは外箱に注意書きがあることが多いが、一般人がチェックするのは難しいので、買う前に薬剤師に確認する方がいいだろう。
なお、ベラドンナ総アルカロイドなどの鼻汁を抑える成分が入っていると、鼻だけでなく、目や喉も乾きやすくなる。加湿器を使うなど、乾燥しすぎないように気をつけよう。
●熱を下げたり、頭痛や関節痛を抑える薬
解熱鎮痛薬と呼ばれるもので、有効成分として、「アセチルサリチル酸」「アセトアミノフェン」「エテンザミド」「イブプロフェン」などがよく用いられる。有名な「アスピリン」は、アセチルサリチル酸の別名だ。
風邪の熱を下げたいとき、あわてて解熱薬を買いに走らなくても、もし頭痛薬や生理痛薬があれば、効能効果の欄をチェックしてみよう。鎮痛薬には、たいてい解熱効果もある。解熱薬は、どうしてもはずせない試験や会議があるときなどに、ある程度熱を下げるのに役立ってくれる。ただし、39度近くの高熱であれば、解熱薬を使う前にできるだけ早く医療機関を受診したほうがいい。
また、解熱鎮痛薬には、胃壁を荒らすものが多い。食欲がない場合でも、牛乳やコンソメスープなどを飲んでから服用するといいだろう。
素人判断で複数の薬を飲むのは危険、様々な症状が出たら総合感冒薬を
●総合感冒薬
せき止め、鼻水用、解熱薬などをブレンドして、多様な風邪の症状への効果をねらった薬。栄養補給にビタミンなどが含まれていることもある。
薬には飲みあわせの問題があり、例えばせき止めと鼻水用の薬を素人判断で一緒に飲むのは危険だ。例えば、せきと鼻水がひどくて熱も少しあるなど、さまざまな症状があるときには、それらの症状に対応した総合感冒薬を利用しよう。
肥満の定義
薬効 | 作用 | 成分 |
咳・痰に効く薬 | 咳を抑える薬 | 塩酸ジヒドロコデイン、塩酸dl-塩酸メチルエフェドリン、ノスカピンなど |
痰を切れやすくする薬 | 塩酸ブロムヘキシンなど | |
鼻風邪に効く薬 | アレルギーを抑える薬 | マレイン酸クロルフェニラミン、ジフェンヒドラミンなど |
鼻汁分泌を抑える薬 | ベラドンナ総アルカロイド、ヨウ化イソプロパミドなど | |
熱を下げ、痛みを抑える薬 | 解熱鎮痛薬 | アセトアミノフェン、エテンザミド、イブプロフェンなど |
漢方薬は体質に合わせて飲むのが基本、相談に乗ってくれる専門家を見つけよう
●漢方薬
風邪薬として、「葛根湯」や「小青竜湯」のような漢方薬を利用する方法もある。漢方薬は症状を抑えるというより、体調を整えるものなので、風邪を治すためには、対症療法の西洋薬よりもむしろあっているかもしれない。ただ、漢方薬は体質に合わせて飲むのが基本だ。
例えば、同じような風邪の症状でも、身体が冷えやすい体質の人には身体を温めるような薬、身体が熱を持ちやすい人には、身体を冷やすような薬と使い分ける。体質の判断は難しいので、はじめて利用するときは、漢方に詳しい医師や薬剤師に相談したほうがいいだろう。
信頼できるプロに相談するのがいちばん
いずれにしても、薬の種類は多く、素人判断は難しい。似たような名前の有効成分でも、実際には全然違うものもある。薬を選ぶときには、いまどういう症状で自分はどうしたいのか、例えば試験があるので眠くなると困るといったことを、薬剤師に詳しく話して相談するのがいちばんだ。
話をあまり聞いてくれず、特定の薬を押しつけられるようなら、別の薬局を探したほうがいい。上手な薬選びのコツは、よく相談に乗ってくれる信頼できる専門家を見つけることだ。
■ たかが風邪薬、されど風邪薬(2008年4月:日経メディカル)
―医師も投薬に悩みあり
<著者プロフィール>
竹中郁夫(もなみ法律事務所)●たけなか いくお氏。医師と弁護士双方の視点から、医療訴訟に取り組む。京大法学部、信州大医学部を卒業。1986年に診療所を開設後、97年に札幌市でもなみ法律事務所を開設。
今年のはじめにこんな事故があったのをご記憶でしょうか?2008年1月14日、午前9時半ころ、山形県鶴岡市の国道112号線月山第2トンネル内で高速バスの男性運転手(52歳)が意識もうろう状態に陥りました。異常に気が付いた乗客の男性がとっさにハンドルを操作して、バスは、タイヤを道路左側の縁石にこすらせ、ノッキングを起こして停車しました。乗客26人は無事だったとはいえ、一つ間違えば大惨事となるところでした。
バス会社によると、この運転手は前日から風邪気味で前日と事故当日の朝に風邪薬を飲んだということです。事故当日の朝には37度台の熱があったそうですが、事故後の受診でインフルエンザと診断されています。
従来から「インペアード・パフォーマンス」(気づきにくい能力ダウン)の研究を続けている東北大学サイクロトロン・ラジオアイソトープセンターの田代学准教授(核医学)らのグループは、このバス事故を受けて、次のような実験結果を発表し、抗ヒスタミン薬の服用と運転危険について警鐘を鳴らしています。
実験の方法は、14名の健常若年成人男子に、抗ヒスタミン薬(d-クロルフェニラミン 6mg 複効錠:長い時間をかけてゆっくり吸収されるタイプ)とプラセボ(乳酸菌製剤)を内服させ、約2時間後に自動車運転シミュレーションシステム上で運転をしてもらい、そのときの主観的眠気、運転パフォーマンスを記録し、さらにPETを使って運転中の脳血流の変化を調べるというものです。
実験結果は、主観的眠気の強さは、プラセボと鎮静性抗ヒスタミン薬の条件の間にほとんど差が認められませんでしたが、抗ヒスタミン薬内服時に、プラセボ内服時にくらべて、蛇行運転回数が大幅に増加し、PET画像解析の結果、安静閉眼状態と比較して運転操作中には、一次運動-感覚野、運動前野、視覚野、頭頂葉、帯状回、側頭葉、小脳、中脳、視床など、非常に多くの部位に有意な局所脳血流量増加が認められています。
研究グループは以下のように考察をまとめています。
免疫疾患および磁気パルサー
今回の研究では、抗ヒスタミン薬を服用した本人がはっきりした眠気を感じてはいなかったのに、運転中の蛇行運転の頻度が大きく増えていた。また、鎮静性抗ヒスタミン薬内服後の運転操作中に脳の反応がとくに抑制された視覚野、頭頂葉、側頭葉、小脳などは、動きをともなう視覚情報を処理して次の瞬間の最適な動作を決めていくための情報伝達経路とだいたい一致していた。
以上のことから、鎮静性抗ヒスタミン薬内服後の視覚系の情報処理機能の抑制が、運転に必要な神経回路の活動を不十分なものにしてしまったために運転パフォーマンスの低下をひきおこした可能性が高いと考えられた。この研究成果は薬理学の専門誌(Human Psychopharmacology:タイトル和訳は「ヒト精神薬理学雑誌」)の2008年3月号に掲載された。
研究グループは、PETを駆使して、抗ヒスタミン薬が脳の情報伝達をブロックする強さ(脳内ヒスタミンH1 受容体占拠率)の測定も実施してきた。また、鎮静性抗ヒスタミン薬の服用後の自動車運転中にブレーキペダルを踏むのが遅れること、携帯電話通話による遅れと相乗効果があることを実車運転試験によって初めて報告していた(プレスリリース2005年6月23日)。こうした研究の蓄積の結果、将来、さらに総合的な研究成果が報告されることが期待される。
以前から抗ヒスタミン薬を服用すると眠くなるということはよく知られています。より眠くならない抗ヒスタミン剤の開発もされているわけですが、そもそも本人が感じる眠気には個人差と変動がありますから、交通事故に限らず眠気がトラブルを誘発しかねないと危惧すれば風邪薬を服用したり、処方するのも容易なことではありません。
この実験では、風邪を引いたり、花粉症の状態の被験者ではなかったのでしょうが、実際の患者さんでは風邪で発熱していたり、花粉症で鼻水ズーズーで体内にもヒスタミンたっぷり、そのような状態自体で眠たい、倒れ込みたいというケースも少なくありません。
20年ほど前、私の開業医時代にそのころでは人使いの荒いということで断トツといわれる某運送会社の支店が医院の近所にありました。ある日「38度あまりの熱が出ているが、これから隣の府県まで往復してこなければならない。ついては注射一発、応急処置をお願いします」という若いドライバーが駆け込んで来ました。
点滴に鎮痛解熱薬を入れて治療をしましたが、やはり頭に浮かんだのは事故の懸念です。使ったのは抗ヒスタミン薬ではありませんでしたが、鎮痛解熱薬の添付書類にもいろいろと注意書きはあります。抗ヒスタミン薬ほどではないですが、眠気もなくはないニュアンスの記載がありました。
そもそも薬など入れず、単に水分だけ補給しても、有熱疾患でベッドに倒れ込んでホッと一息つけば、薬に関係なく眠くなっても不思議はありません。全く水分だけのプラセボを点滴して、「ハーハーしんどいなあ」という状態で行くより、熱を下げて運転にしっかり気をつけて行ってもらった方が交通事故の確率は低いと思い、鎮痛薬を投与する対応をしました。
先日医学雑誌の法律相談で「治療や検査のため眠気を生じる危険のある薬剤を使うときに、車で来るなといっても車で来院する患者がいる。このようなとき帰りに交通事故でも起こしたら、医師の責任はどうなる?」という質問を受けました。「車で来ているのを知っていて、そのような薬剤投与を行った場合は、法的責任を問われないともいえない」という建前論で質問に回答しました。ですが、20年ほど前の回答者自身が「帰ってさっさと養生しないのなら治療はできません」とはいえなかったことを思い返すと、たかが風邪薬、されど風邪薬、それほど簡単にすっきり回答できる問題ではありません。
会社や個人に対して、建前でコンプライアンス(遵法性)やモラルが強く求められる一方、実際にきちっと休んだり、自重したりすると、即座に「もう明日から来なくていいから」と本音でいわれかねない時代です。
薬もそうですが、そもそも風邪や花粉症自体も体調を不良にして、事故誘発性をはらんでいるといえばいえるでしょう。交通事故に限らず、医療事故なども医師や看護師が風邪を引いたらちゃんと休めるような環境ならば、ずいぶんと違ってくるのかもしれませんが、医療崩壊が叫ばれる今なかなか難しいものがありそうです。
■ 鎮静性抗ヒスタミン薬(2008年2月:日経メディカル)
―小児への処方は見直しを
「日本は諸外国と比較して、小児の風邪や花粉症、アトピー性皮膚炎などに鎮静作用の強い第1世代の抗ヒスタミン薬を処方する頻度が異常に高い。子どもは副作用をあまり訴えない。医師側も使い慣れている薬をつい使ってしまうのではないか」――。こう話すのは東北大大学院機能薬理学教授の谷内一彦氏だ。
抗ヒスタミン薬は、眠気や集中力、判断力、作業効率低下などの鎮静作用を指標にして、鎮静作用の高い第1世代と、その欠点を克服したとされる第2世代に分類されている。同氏の調査では、成人には8割近くで第2世代抗ヒスタミン薬が処方されていたが、小児では処方の7~8割が第1世代を中心とする鎮静作用の強い抗ヒスタミン薬だった。
「鎮静性抗ヒスタミン薬は、欧米の薬理学教科書では睡眠薬としても位置付けられている。脳への移行性が国際的に問題視されており、本来小児では、より警戒しなければいけないはずだ」と谷内氏は指摘する。
脳内への移行に大きな差
谷内氏は、各種抗ヒスタミン薬の鎮静作用の差を「脳への移行率」という形で客観的に評価するため、PETを用いて、抗ヒスタミン薬服用後の脳内H1受容体占拠率を調べてみた(表)。H1受容体占拠率の高さは、実際の鎮静作用の程度と強く相関することが分かっている。
表 わが国で使われている抗ヒスタミン薬のH1受容体占拠率
抗ヒスタミン薬を投与後、H1受容体拮抗作用を持つ11C-ドキセピンを微量投与し、PETにより脳内におけるH1受容体占拠率を定量した。ロラタジンはセチリジンと同程度。今後論文発表予定。(出典:Yanai K. Pharmacol & Ther. 2007;113:1-15を一部改変)
その結果、第1世代抗ヒスタミン薬のH1受容体占拠率は50%以上だったのに対し、第2世代ではおおむね30%以下であることが明らかになった。ただし、第2世代に分類されていても明確な基準はないため、薬剤間で大きな差が見られた。
■ FDAが2歳未満には市販の風邪薬を使わないよう推奨(2008年1月:日経メディカル)
2歳以上の小児に対しても注意を喚起
米国食品医薬品局(FDA)は2008年1月17日、2歳未満の幼児や小児に対して、市販の風邪薬(充血除去薬[decongestants]、抗ヒスタミン薬、去痰薬、鎮咳薬)を用いないことを推奨すると発表した。これらの薬は風邪を治癒させる効果はない一方、死亡やけいれんを含む重篤な副作用が、まれではあるが起こるためだ。
またFDAは、2歳以上の小児への使用の是非については、継続して検討を続ける方針。2歳以上の小児に対しても注意するよう保護者に呼びかけている。
この決定は、2007年10月に開かれたFDAの諮問委員会における結論を受けたもの。『薬のチェック』誌29号(2008年1月)によると、この諮問委員会は、ボルチモア市の保健当局と小児科医が同年3月に行った市民請願(Citizen Petition)を受ける形で開催された。審議の結果、小児に対する市販の風邪薬の使用について、6歳未満では13対9、2歳未満では21対1で、「使うべきではない」という結論が下されていた。
このほか、米国疾病管理センター(CDC)も2007年1月、実態調査の結果を受けて、咳止めと風邪薬を2歳未満の乳幼児に投与する際には十分な注意が必要、と注意を喚起している。
■2歳未満への咳止めと風邪薬投与に注意(2007年1月:日経メディカル)
米国CDCの実態調査で死亡例も
抗ヒスタミン薬、鎮咳薬、去痰薬、鼻粘膜の鬱血除去薬などを含む咳止めと風邪薬を2歳未満の乳幼児に投与する際には十分な注意が必要、との注意喚起が米国疾病管理センター(CDC)から出された。
CDCは、全米監察医協会(NAME)の協力を得て、生後12カ月以下の乳児の風邪薬と咳止めに関連した死亡について調査し、報告書を2007年1月12日に発表した。調査の結果、死亡者数は2005年に米国内2州で3人と、数こそ少なかったものの、過剰摂取による有害事象の発生が十分懸念されたことから、2歳未満の患者にこれら薬剤を処方する医師に対して注意を喚起した。
現在、米国では、市販の風邪薬や咳止めを2歳以上の小児に投与することは認められているが、2歳未満は適用範囲外だ。これら市販薬に関する臨床試験の系統的レビューで、上気道感染の症状に対する有意な効果は示されていないからだ。また2歳未満の幼児に咳止めや風邪薬を処方する場合の推奨用量も設定されていない。
しかし日常診療では、2歳未満の小児の上気道感染の症状を一時的に緩和するために、風邪薬と咳止めがそれぞれ単独で、または同時に処方されている。そして医師から処方された、または、市販の咳止めや風邪薬を使用したことが原因と見られる2歳未満の救急部門受診者は、2004~2005年で1519人が報告されている。
血中プソイドエフェドリン値が死亡例で高値
今回の調査は、2006年1月に監察医を対象に、電子メールを使って咳止めと風邪薬が死亡原因と判定された生後12カ月以下の乳児について報告を求めるとともに、2005年にメディアや医学雑誌取り上げられた症例についても調べた。その結果、2005年には、米国内2州で生後1~6カ月の乳児3人が、これら薬剤により死亡していたことが明らかになった。
死亡した3人は、検視時に血中プソイドエフェドリン値が4743~7100ng/mLと高値(2~12歳の小児に推奨用量を投与した場合の9~14倍に相当)を示した。1人はプソイドエフェドリンを含む処方薬と市販薬を同時に使用していた。残る2人のうち、1人は処方薬、もう1人は市販薬のみの使用だった。また2人の患者は抗ヒスタミン薬(carbinoxamine)を含む処方薬を使用していたが、検視時には検出されなかった。このほか、デキストロメトルファン、アセトアミノフェンは2人の血中から検出された。
なお、3人とも自宅で死亡していた。剖検により2人の患者に気道感染が認められた。3人すべてに心臓に異常はなかった。
CDCは、毒性が懸念されること、推奨用量が示されていないこと、2歳未満の小児に対する効果を示したエビデンスは限定されていることを踏まえ、医師が2歳未満にこれらの薬剤を処方する場合には、重症の有害事象または死亡のリスクがあることを念頭に置き、過剰摂取を防ぐために、親や養育者に市販薬の使用の有無について確認し、指示された方法でのみ薬剤を用いるよう十分に説明しなければならない、とした。加えて、親や養育者は、医療提供者に相談することなく2歳未満の小児にこれらの薬剤を与えてはならず、医師などの指示を仰がねばならないとした。
米小児科学会や米胸部疾患学会も勧告
乳幼児への風邪薬や咳止めの投与を巡っては、CDCだけでなく学会も対策を取ってきた。
米小児科学会は1997年に声明を発表し、医師は患者の親に対して、鎮咳薬のコデインやデキストロメトルファンの乳幼児に対する効果は証明されておらず、副作用が懸念されることを知らせると共に、過剰摂取を避ける方法を説明するよう勧告している。また米胸部疾患学会(ACCP)も、2006年に咳の管理に関する臨床診療ガイドラインを発表し、医療提供者に対して、乳幼児への市販の鎮咳薬などの使用を勧めないよう勧告している。
米食品医薬品局(FDA)は、2歳未満の小児に対するカルビノキサミンの使用には安全上問題があるにもかかわらず、多くの製品が適応年齢について不適切な表示を用いていると指摘し、2006年6月8日、FDA未承認のカルビノキサミン含有医薬品の製造を2006年9月6日までに中止させるべく強制的措置を取った。
また、プソイドエフェドリンについて、これを原料にメタンフェタミンが製造されることを阻止するための法案(この成分を含む薬剤は薬局のカウンターの後ろに置くことを義務づけた)が施行された2006年3月9日以来、多くの風邪薬において、この成分が別の鬱血除去薬に置き換えられている。
0 件のコメント:
コメントを投稿